Rabbit or Duck?

Chronicles of My Ambiguous Life

読書日記1

  『調理場という戦場』が好きで、斉須さんの本をもう少し読んでみようと思ったけど、それよりも斉須さんから話を聞きだした人がどんな本を書いているかと思い、この本にたどり着いた。これも料理人のインタビュー本。とても、いい本だった。

料理の旅人

料理の旅人

 

 

 この本は現役料理人の体験談を集めている。多くの料理人が若い頃、海外で数年働いている。その体験談は「旅」の土産話のようだということからこの本の題名が『料理の旅人』になっている。“はじめに”の部分を読んだだけで、あ、この本きっと自分に合ってると思った。

最近は雇用不安から転職、退職、市場開拓などの必要に迫られ、「生活の懸かった移動」を考える局面に直面する人も多いのではないか。本来の意味での「旅」とは多少ちがうかもしれないけど、生命を懸けるという面では観光旅行などよりもタフな意味での「旅」に近いように思える。(p.4)

 もう、今の自分だと(笑)斉須さんもフランスでいくつかの店を渡り歩いているし、ここに出てくる料理人の人もそういう人が多い。これを読んでいて、あ~自分の仕事も料理人だなと思った。以下、付箋を貼ったところ。

 

職業の選び方についての考え方で、イタリア料理食材業者の稲垣陽一さんがこのように言っている。

好きで選んだのでも、かと言ってきらいでもないと言うのか。そういう関わり方で働くのもいいんじゃないのかと思います。

よほど特殊な才能でもなければ、こちらから選択するというよりは与えられた環境の範囲で何はともあれやっていくということになるだろうし、実際問題、そういう関わり方でもそれなりにやっていればかたちになっていくものじゃないでしょうかね。(p.68)

私の職業観もこれに近い。「自分探し」や「天職探し」は誰かが作ったストーリーに感じてしまう。それよりも、どんな場所にいても、自分をその場所に合わせて順応させていく。それが、仕事として継続できれば、“それなり”にできるようになるんだろうと最近は思う。大事なことは順応して、継続することなんだと思う。

 

フランス料理の料理人である小峰敏宏さんがレストランの経営について

現実は不本意で不完全なもの。店をやっていれば、偶然や流行に左右されるのも当然です。だから大切なのは、「自分の個性」「店の持ち味」をはじめから前面に出すことよりも「お客さんの反応を見ながら細かい軌道修正を継続すること」ではないでしょうか。実際、大変な現実を柔軟に受け入れるためには、楽観的でなければ耐えられないでしょう。(p.173) 

一般的に個性や持ち味みたいなものは大切にするべきだとされている。だけど、それはいつもそうではないんだと思う。やはり相手がある仕事の場合、その反応を見ることが大事で、そこに、自分の個性や持ち味をいい形でのせていく必要があると思う。個性が先ではなく、相手が先なのだろう。

 

渋谷康弘さんが非効率の美を念頭に仕事をしているという話の中で、フランス人シェフのピエール・ガニェールの言葉をあげていて

うちのピエール・ガニエールもよく『料理はやはり愛だ』というんです。愛って、つまりそこにかける手間や準備のことです。(p.187)

あ~「愛」をこういうふうに表すのは、すごく腑に落ちる。 

 

フランス料理の料理人である田村良雄さんが若い人に期待することの話の中で、自身の若い頃を振り返りながら

当時、ホテルの宴会もバーも食堂も全部自分が見なければならないのは不便に感じていたけれど、原価率やトータルの営業など、学ぶところも大きかった。その時々の短所は長所につながっているとも伝えておきたいですね。(中略)環境や状況は、考えよう。それから、おもしろさを追求してもらいたい。(p.206)

最近、感じている不本意な状況や逆境での気の持ち方。どんな状況でも何かを学べる、そう考えられることが大事だと思う。